2018-06-12

    第94話 最初に憧れたオートバイ(2) (初掲載 2017年6月20(火))

     当時のロード・パルのエンジンのかけ方は以下のとおりだ。たぶん僕の記憶は間違っていないと思う。

     キーをイグニッションに差し込んで回してメインスイッチを入れる。
     エンジン後部にあったペダルが固く感じるまで足で何度か踏み込む。(踏み込む度に「ガチャガチャ」とか「カチカチ」とも聞こえるような音がした。たぶん中のゼンマイが巻かれていたのだろう。)
     そしてハンドル左のレバー(後輪ブレーキ・レバー)を握ると巻いていたゼンマイが解放され、その復元力でクランクが回ってエンジンがかかる。
     その状態でアクセルを回すと「パパパパーン」とも「タタタターン」とも聞こえるエンジン音が発生するのだ。それは「ラッタッター」という擬音で塗り固められていた僕のロード・パルのイメージを見事に払拭した。そして僕に「これもオートバイだ」と思わせたのだ。

     それもそのはずだった。後から知ったのだけれど、これに搭載されていたエンジンは空冷単気筒2ストエンジンで、出力こそ超低いが当時のオートバイで当たり前のように採用されていた方式のエンジンだったのだ。見た目は「ブサイクなミニサイクリング」ではあったが、ロード・パルも間違いなく「オートバイ」だったのである。
     その時から僕はこのロード・パルに魅せられてしまった。実際の耳に聴こえてくるそのエンジン音に、高校生男子がハマらないわけがなかったのである。

     このロード・パルは母親がパートに行く際に最寄り駅まで乗っていくもので、しかも夜の7時半くらいまで帰ってこないものだから、僕がこれを触ることができる機会はかなり少なかった。しかし母親がパートが休みで家にロード・パルがあった時は、よくそれに跨ってエンジンをかけたものだった。本当はそのままどこかに走って行きたかったが気弱で免許がない僕には、そんな大それたことはできなかった。それにロード・パルが家にあるということは母親も家にいるということだったから、もし僕が勝手にそれに乗って出て行ったりしたら、すぐにバレて大目玉を食らい、以降触らせてもくれなくなっただろう。今のご時世なら無免許の高校生が家の原チャリを勝手に乗り回すなんてことは珍しくも何ともないことだが、あの頃の世の中は高校生に対するバイクの取り扱いが本当に凄く厳しい時代だったのだ。

     例えば法律で16歳になると原チャリの免許を取得することができることになっていたが、僕が高校生になった頃、全国のほとんどの高校が(特別な事情がある場合を除き)それを許さないようになった。憲法で保障されているはずの権利が教育の名の下で事実上禁止されたのである。既に免許を取っていた者たちは免許証を強制的に学校に預けさせられた。もちろんそうなると所持していたバイクにも乗れず、結局それを手放すか高校を卒業するまで乗らずに保管したままとするか、のどちらかしか選択肢はなかった。隠れて乗り、それがもしバレると警察も絡むものだから学校内で大問題とされた。僕のクラスメートの中にもそういう奴がいて、停学とまでは行かなかったが自宅謹慎とされていた。

     僕は不思議だった。どうして法律で保障されていることを僕らがやってはいけないのか?

     当時の先生たちは誰一人として説明してくれなかった。訊いても「『決まり』だ」と言うだけで相手にもしてくれなかった。当時は全国で凶暴な暴走族が暴れまくっていたから、そういう手を使いでもしなければ当時の教育者たちは僕らを抑制できなかったのだろう。

     そんなこんなで当時の僕は、家にやってきた母親のロード・パルに跨り、エンジンをかけてその音を聞いては、自分がこれに乗って走っている姿を想像していた。そしてそれは、そう遠くない未来に実現するものなのだと固く信じていた。だから僕が最初に憧れたオートバイは、紛れもなくホンダのロード・パルだと言えるだろう。

     しかし、一年もしないうちに僕はそういうことをしなくなった。やはり実際に乗れないものに対する興味を持続させることは、まだまだ幼い僕には難しかったのだ。
     ロード・パルも、それから数年後には姿を消した。その際新しい原チャリが我が家にやってきて、それはロード・パルよりも遥かに進化した原チャリだったのだけれど僕がそれに興味を持つことはなかった。そしてその原チャリもいつの間にか姿を消した。

     僕が次にオートバイというものに興味を持ったのは、それから数年後の大学二回生になった時だった。その話はまたの機会に。



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